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ビューロクラシーはそもそも縦割り   

2006.02.11「週刊!木村剛」のコラボ記事「[フィナンシャルi] 気づきによる組織風土改革」にTBします。

 北川先生なかなか面白い授業をされてますね。

 私が某大学院で学んでいた頃、指導教官は某省のキャリア組の教授でした。お役所のシステムに関してはかなりたたき込まれましたね。その時の知識と情報からA・B両班の発表に対する感想を書きます。

【A班の発表】
 初年度1年間は組織風土改革のための理念と達成方法を確立するため、調査研究を実施します。そのためアンケートやベスト・プラクティスのベンチ・マーキングを行います。2年目に実行、3年目に成果と検証を行います。


 まずはこのA班ですが、最初の1年間は改革の理念と達成方法を確立するための調査研究だそうです。正直、ぬるいですね。というか、1年間もの時間をかけて調査研究するために公務員の人員を割く、そのために人件費を振り向ける、という発想がそもそも役所的ですな。それが許される職場であること自体が風土改革の対象でしょう。それに、役所の人間が役所の中のことに「気づく」ことができるのか疑問がある。三重県がやったように、行政経営品質活動などの外部の基準を導入して改革することが必要でしょうな。

 そして、アンケートやベンチマーキング。これは、はっきり言って効果がないです。私も研究の材料を作るためにアンケートをやろうと考えたところ、指導教官に斬って捨てられました。その理由は、役所というのは中小企業の集まりみたいなもの。お題では10部100課となっているので、まさに中小企業100社が集まったグループ企業みたいなもの。同じ部であっても隣の課とは別組織で横の連動はない。課と課は互いに対等の立場で上下はなく、相手の課にもの申すことはタブーで、アドバイスをしようものなら内政干渉になる。互いに情報を秘匿しあい、社長名(課長名)の文書で正式に依頼しないと情報が出てこない。

 全役所にまたがるアンケートなど調査モノをかけたとしても、「ご苦労さんなこと」と思う前に「まためんどくさい調査モノか」と、通常業務にプラスアルファで負荷がかかることから、はなからやる気無し。調査の意図をくみ取って、調査目的が達成されるように自分の課の情報を必死こいて収集して答えてあげようなどとするはずがなく、過去の書類をひっくり返さないと分からないようなものは「その他」に○して終わるか、適当に書いて終わり。正確な状況把握など期待できない、と指導教官はいう。さすがに国の役人さんで、そのあたりの話は表からは見えずなかなか面白い。結局私の研究ではアンケートを元にした実態把握は断念しました。

 B班からの指摘で「1年目でできることはやれ。年度で考えるな」というものがありましたが、調査をしてすぐできるところは実行していく、というのは確かにそうなんでしょうけど、問題は、組織風土改革の理念を据えたとしても、何をどう改革するのかの把握ができるのかということ。

 中小企業の集まりであって内政干渉はできない。他の課の人間がやってきて「あなたの課のここはこう直した方がいい」と言ってきて、「ははぁ~!御意のままに」となるはずがない。担当者を命じられた40歳にそこまでの権限があるとは思えないしね。首長直下の特命チームで全ての課の一階層上でなければまず無理でしょう。「オレのコトバは首長のコトバだぜ!」っていう錦の御旗っていうか、黄門様の印籠というか、そういうのがないと、50代の社長(課長のことね)のところへいって改善させる事なんてできるはずがない。

 まぁ、ここに書いてあるA班の発表では、現実の組織の中ではまるっきり不可能に近いでしょう。これに対するB班の指摘も年度の概念の程度ではしょうがないですな。

【B班の発表】
 初年度は各部長に依頼して各部からやる気のある職員2名ずつ出してもらってプロジェクトチームをつくります。1年間で何をやるかコンセプトを固めて、実行体制を組むべく各部に戻して、各課ごとに組織風土改革に2年目から実施に移して3年目に成果、検証をします。


 さてB班ですが、部長に職員を出してもらってPTを作るとの事ですが、部長命で意欲のある職員を出すことはできるでしょう。問題はそうやって作ったPTがどういう権限を持つのか、ということですね。

 これは先ほども書いたとおり、PTが首長の特命であればまだ実効性はあるでしょうね。部長の権限の下にある20名の意欲ある職員プラス改革担当の自分のPTが、PTの会議で話し合ったことを各部に戻って実行できるのかどうか。10部100課で、各部10課だとしたら、10課あるうちから2人だけPTのメンバーなので、PTんpメンバーはさらに部内で改革チームをつくるのか。それとも各課に改革担当者を置いて組織化するのか。10課あってもそのうち2人だけPTに参加している状況で、PTのコンセプトを共有するとなると、PTのメンバーが部長と一緒になって課長を指揮するような形が手っ取り早いですよね。

 ただ現実的には一職員が部長の知恵袋となって一緒に行動することができないので、部長に主旨を理解してもらって部長が改革の指揮をとることになるでしょう。果たして、PTのメンバーである一職員が部長を意のままに操れるのか。古典的なビューロクラシーを堅持している役所組織でそれはできるのかなぁ?

 これに対してA班は「既存の組織概念を破ってない」と指摘していますが、その批判は的はずれでしょう。概念を破ったところで、実行するのは既存の組織の中ですから。少なくとも改革の一番はじめは。PTを作ったからといって、100社の中小企業の社長を動かすんですからね。初動のあとに組織自体の改革へと動くことはできるでしょうが、はじめの一歩はやはり既存の組織から出発なんですよね。これを横断的にやるとするなら、首長の御旗もしくは印籠がないとダメでしょう。

 指導教官いわく、役所は権限のヒエラルキー構造で形をなしている。よって、新人のぺーぺー役人が何を言っても権限と責任がないから無理。権限と責任をもっている者(社長=課長、もちろんそれ以上の立場の者)が理解し納得しなければ実行はない。縦割りの弊害と簡単に言うが、権限のヒエラルキー構造はすなわち縦割り構造であり、それを是として成立している組織に、外部で言う縦割りの弊害を「弊害」と認識することは基本的にないと。
 
 北川教授は「気づき」のしかけをトップがしなければならないとおっしゃっているように思うが、まさにそのとおりで、縦割りの弊害を弊害と見ることができるのはトップ以外にない。相手の領域に権限と責任が無い時点で、独立&並列の相手の組織と何かを変えようというのは、それぞれのできる範囲でのことに限定される。首長が「アホか。合理性を追求しろ。」といって気づかせてやる、政治家としてマネジメントする力量がないとヒエラルキー構造の中にいる人間には無理なことでしょう。
 
 防衛施設庁が談合を繰り返していたことを、仮に他の省庁が知ったとしても、防衛施設庁の体質改善をしてやんなきゃ、とあれこれ動けるかというと動けないでしょ?「あんたんとこ談合してるでしょ?」って言ったって「やってないよ。なんくせ付けにきたか。何のつもりだ!」で終わりだし。談合やってる現場の職員を他の省庁のエライさんが自分の指揮下に置こうとしても無理だしね。

 まあ、そういう観点で言えば、省庁の事務方のトップを官僚の成り上がりポストではなく、アメリカみたいに政権交代ごとに交代する政治任命職にすればいいのかも。それだけでいいわけじゃないけど、まずは、ね。

 県知事とか市町村長は、ほんとに力量のある人がつかないと無理だね。官僚制組織に自浄作用はないからね。ボトムアップ型の改革ができる組織・システムならもうとっくに改革が彼らの手でできているだろうて。明治維新いらい連綿と続いているシステムにあって、不祥事ばかりやらかしているんだから・・。

 北川教授のこの授業を受けている学生さんが現場の官僚制組織(役所だけじゃなくて企業もシステム的にはそうだからね!)に入ったときに、高くて厚くて越えられない現実の壁に直面することでしょう。

 まあ、私だったら各部からPTメンバーを集めて、というところは賛成で、そのPTで基本コンセプト、実行計画、改革進捗管理方法、実行結果の検証および評価方法をとりまとめ、そのプランをまずは首長に徹底的にインプリントして、首長から重役会議に提出してもらって決をとり、首長命をとりつけてPTで実行しますね。もちろん、HPなどで詳細を公表し、市民の目を味方につけて中小企業の社長(課長)どもを脅かし、実行しないところは自然とつるし上げられるようなシステムを構築できればなんとかやっていけるでしょう。

by cogno_eb2 | 2006-02-14 12:00 | ニュースコラム

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